2017年10月26日

薄やみの訪れるとき

リコ。私たちのカフェの営業は、朝の九時から夜の七時まで。朝はトンボの羽より薄くて透明な明かり。それが窓に射してきて、この季節なら涼しい風が入り込んできます。昼は川の水面。まっすぐに上った太陽の光をうけて、光の斑点がきら、きら、とうごめく。それから昼下がりです。太陽の光線にフィルムがかかったように柔らかになる。眠気をさそうこの時間帯に、カフェ全体がまどろんでいます。

しかしなんといっても、私が一番大好きなのは薄やみの訪れるときです。閉店近く、太陽が赤色に変わるころ、照明の行き届かないところが暗くぼやけてくるようなとき。そのとき人間らしい営みはひっそりと静まり返って、ただお湯の沸く音、時計のチクタク、店内のオルゴールの音だけが場所を囲い込む。アリスが不思議の国にいったのは、本当はそんな時刻だったのではないかと思うのです。薄やみの中、小さな洞穴の向こうに広がる不思議な世界。薄やみは、そんな不思議を漂わせながら、お客さんたちをやさしく包んでいくのです。

マコ