2017年10月23日

足すことだけじゃない世界で

リコ。昨日の夜、古書「冬ごもり」というお店に行きました。この街に雪は降っていないはずなのに、私は雪道をぎゅっ、ぎゅと歩いて、やっとたどり着いた明るいランプの家のように、そのお店を眺めやりました。ランプは入口に広くとった窓ガラスから路上に漏れて、そこだけが夢の中のような雰囲気を漂わせていました。

店内は、きちんと整理された本棚と真ん中にテーブルが一つだけ。石ころの転がる河川の川辺のようにさっぱりとした店構えです。テーブルではカフェもやっていて、店主さんによると、ここを本屋として利用する人とカフェとして利用する人の割合は1:9くらいだというのです。なんだか分かる気がします。同じカフェを運営するものとして、ここには外界とは違う時間の流れ方があるから。

私は「冬の本」という本棚の中に、好きなデンマークの作家を見つけたのでそれを買って、あとはコーヒーを飲みながら、その本をめくっていたのです。背後に雪の気配を感じたので振り返ると、びゅうっと秋風が吹きました。

そうしているうち、店主さん(それは若くて美しい女性でしたが)とも仲良しになって、読書会のお誘いをいただいたのです。それは街の中にある古民家の居間で、二月に行われる読書会です。「きっと寒いでしょうけれど、寒さは寒さのままで過ごしたいのです」と店主さんは言われました。しかも読むのは谷崎潤一郎の『細雪』。頭の中まで真冬です。私は今から楽しみになりました。

うちへ帰りながら、「冬ごもり」の店主さんの言葉を思い返していました。「きっと寒いけれど、寒さは寒さのままで過ごしたいのです」。そう言われた瞬間に、私の中で何かの荷が降ろされたのを感じました。苦痛は、排除されなくてもいいのだ。苦痛は苦痛のまま、それと一緒になって暮らす方法もあるのだと気づかされたのです。社会で生きていくことが苦手だといった店主さんは、一見この世界の辺境にいるように見えて、この世界の先頭に立っているのではないでしょうか。苦痛を苦痛として共に暮らす。雪と一緒に暮らす。まさに「冬ごもり」の生活を実践されているお方なのです。

今日はここまで。じゃあまたね。

マコ