リコ。今日は雨がしとしと。このまま数日間も降り続くのではないかというくらいに降り続けていました。それは厭な感じじゃなくて、むしろ好ましく見ていたのです。カフェの窓から眺められる雨ふりの風景。晴れた空が外へ向かっての発散なら、雨の降る日は内に向かっての沈黙です。今日はお休みしていいと、神様が許してくれた日。こんな日は、いつまでもカフェに籠って、コーヒーで温まっていましょう。
カフェ・クッカから、川が見渡せる、というよりもこのカフェが川に沿って建っているという話はもうしたでしょうか。カフェ・クッカは、川辺の古民家の二階に店を構えているのです。その、窓から見下ろせる川の柳に、子猫が一匹雨宿りしていました。毛の先っぽは濡れて、早く乾かさないと風邪を引いてしまいそう。それでも猫は丸く座り込んで、ときどき周囲を見渡しては目を細めるのです。
仕事場からの帰り道、その猫の形象(イメージ)が何度となく思い起こされました。雨はもう上がって、急ぎ走る黒雲の隙間から、星がちらちらと見え隠れしていました。この暗く大きな星空の下で、猫も私も、本来孤独な生き物なのだという考えが浮かんで来たのです。「家族」という生物的な制度に守られてはいても、それは変わるものだし、絶対的なものじゃない。この大空の下で、本当は誰もが孤独なのです。そこには恋愛でも埋め合わせられないくらいの、大きな穴が空いている。
ちょうど喉が渇いていて、道端に自動販売機を見つけたので、私は車を停めました。カフェ・クッカからの帰り道として、湖畔を「通らない」ほうの道から帰っていたのです。そこは民家もまばらな田園地帯で、車を停めると遠くの森がさやさやと揺られる音が聞こえました。私は缶コーヒーを買って(カフェの店員としては、缶コーヒーはコーヒーとは違う別種の飲み物だと思うのです)、しばらく身体を車に持たせかけていました。
私は孤独ということについて考えていました。いいえ、孤独ということを感じていました。恋愛でも家族でも埋め合わせることの出来ない大きな穴は、見ないようにしているだけで、振り返ればすぐそこにある。夜空は容赦なく、この小さな私を寒空の下へ投げ出してしまいました。そして、猫も。リコも。
その時私は、星々の美しいことに気がついたのです。黒雲が馬のように駆けて、その間にちらちらと光る星々。夜空は二つの手を持っている。暗黒の、生物を突き放すような父の手。そして、優しい光で、生物を包み込むような母の手。私は夜空を恐れると共に、好きになることが出来る。缶コーヒーを飲み干すまでの間、私は星々に元気をもらって、また孤独な夜を乗り越えることができそうなのでした。
マコ