2017年5月26日

あの空のプリズム、手の中のプリズム

リコ。佐藤初女さんの本を読んだことは、前に話しましたね。もう口を聞くのも億劫なほど悩み、疲れ切った人の、心をほぐしてしまう彼女のおむすび。それは一つの料理という以上に、この自然界の、いのちの連鎖をその人の身体まで伝えるもの、ではないかと思うのです。このおむすびが食卓に並ぶまでの、たくさんの恵み、たくさんの勤勉。贅沢にも、そうした大自然からの贈り物を口にほおばることによって、その人はもう一度、生きる勇気をもらうことが出来る。私たちのお店、カフェ・クッカでも、初女さんのおむすびのようなコーヒーを出さなければならないと、思うのです。

初女さんの生き方に影響された私は、何事もじっくり、丁寧にやってみることを心がけたのです。例えば朝の、玄関の水やり。水やりは、玄関マットの掃除、水やり、玄関掃除の一連の作業のパーツでしかありません。でも、それをパーツとしてただこなすのではなく、じっくり、丁寧にやってみる。「今日のお客さんを、あなたの美しい花で迎えて下さいね」と心に祈って。私は如雨露の小さな雨が、土の中に吸い込まれていくのを、測量技士のように丹念に見ていました。

もうこれくらいでいいだろうと思った時、ふと太陽の反射で、如雨露の雨に虹が立っていることを発見したのです。私は空を見上げました。空には大きな丸い太陽が、地上に朝日を注いでいました。太陽の光は、七色のプリズムに分解される。それが高い空で起こるのが「虹」という現象です。今、そのプリズムが私の手の中にある。私はそれを発見しました。大空に七色のプリズムを見せてくれる太陽の光は、やはり私の手の中でも、同じ成分のプリズムを光らせてくれている。だから空も、私のいるこの場所も、同じ太陽の成分に包まれているのだ。そう思えたとき、私は鳥のような自由を味わったのです。どこまでもどこまでも続く空を、果てしなく飛んでいく自由の鳥のような。

梅雨が始まりそうな予感です。それでも毎日太陽は上り、雲の向こうから私たちを照らしてくれるのです。

マコ