2017年3月1日

エメラルド色のスープ

リコ。みんなが夕飯を食べる時間に、外はまだ明るいままのような季節になりました。もうすぐ春が来て、私は新メニューを出します。この、ひとつずつ、春の証拠が現れ始めてくる「春待ち」の季節には、なんとも言えない楽しみがあります。

私の今のうちのそばにも、川が流れています(本当に、この街は川ばっかり)。それは四十間堀川(しじゅっけんほりかわ)と言って、お城を守るお堀の一種だったようなのです。日曜日なんか、ぶらぶらと散歩をしていると、四十間堀の上をいくらかの鴨が泳いでいます。何をしているんでしょう。口ばしを水の中につけて、何かをつっつくようにしながら泳いでいるのです。そういうことをするための時間なのか、そこにいる三羽、四羽の鴨たちが、みんなそうして、水中をつつきながら泳いでいて、なんだか可笑しかったのを覚えています。

あるいは夜が更けた時のお堀。スーパーへ買い物へ行って、ふと、小さな旅をしてみようと思い立ちます。私は家の反対方向のお堀へ歩いていって、橋のちょうど真ん中に立ってみるのです。四十間は相当な距離で、私はボートか、宙に浮いているような気持ちになります。その水面に、月が一つ。波は一切立っていないのです。鴨たちの水かきが、水中で動く音が聞こえてくるような気がしました。この大きな水たまりはなんだろう。私はそう思います。まるで、天に住む女神が、銀の小さじで流し込んだ、エメラルド色のスープのよう。

私はそのとき、思い出しました。体育館の演台に上ったあるおばあちゃんの言葉。ずっと農業をしていて、75歳の時に詩人としてデビューした人。私たちが勉強した小学校の大先輩だという理由で、講演会に来てくれたのです。

ーみなさんはこれからいろんな経験をして、嬉しいことも、嫌なこともあるでしょう。考えなくちゃならないことがたくさんあって、頭がごちゃごちゃしてくるかも知れません。でも、そんな時には思い出してください。宝石はいつも、あなたの手の中にあるということ。

このエメラルドを、どれくらいの人が見ているでしょう。出来るだけたくさんの人と、その美しさを分かち合いたい。私はそう思ったのですよ。

それでは、また。

マコ