リコ。梅雨が、始まりました。私も何かを始めようと思いました。飲食店にとって、梅雨はあまりありがたくない季節です(雨は、個人的に好きなのですが)。お客さんは少ないし、食中毒の危険も高まるのです。まあ、大まかにいって負担の少ない毎日が始まるのですから、私は自分の目標であるカフェの運営に向けて、一歩を踏み出してみることにしたのです。外側のものごとは、往々にして動かしがたいものですが、自分の考え方しだいで、やるべきことはあるものです。
さて、カフェの運営については、毎日トモコさんを見て学んでいる。あとは、自分のつくりたい「空間」をつくる技術、つまりインテリアの勉強をしなければならないと思ったのです。だったらインテリアコーディネイター?と思った私に、「違う!」ともう一人の私が言ったのです。「インテリアの本質は色なんだよ。色のことをしらなきゃだめ」声はそう言いました。確かにフランスの老画家、色をこよなく愛し、色にさんざん苦しめられたある老画家が、人生のほとんど最後に作った作品は、礼拝堂という「建築」でした。色を究めたその延長に、建築があるのは不思議なことではないのです。
その老画家の作品に『JAZZ』といういわば、彼のポートレートのようなものがあります。単色ベタ塗りの紙を、切り絵にして重ね合わせて一つの「絵画」を作る。そうして出来た何枚もの「絵画」で構成されたのが、その『JAZZ』という作品なのです。ときどき元気がなくなると、私はこの作品を眺め、そしてまた、現実へ戻ってがんばろうと思えるのです。たとえば夏至の、太陽の白。黒猫のしっぽの、柔らかな毛なみ。南洋の島々に生える、大うちわのようなバナナの葉っぱ。老芸術家が人生で出会ったたくさんの色が、記憶の中から飛び出し、踊り出すのです。そのとき私は、世界がこんなにも美しい場所だったことを思い出すのです。
画家の話になってしまいました。でも色にはそんな力があると思うのです。だからこそ、その老芸術家は、色に一生の情熱をかけることが出来た。そういう訳で、私はカラーコーディネイターの試験を受けてみることにしました。リコへの手紙も、しばらくは書けないかも知れません。一段落、落ち着くまでは。ごめんなさい。あらかじめ謝っておきます。
マコ