2017年1月5日

Hide and seek

リコ。街ではまだ、冷たい雨が降っています。雪はいつ降るんでしょう。私はベランダ近くで、本を読んでいました。雨の音。風の屋根をかすめる音。それきりの音の中、ランプのように小さな明かりの下で本を読みました。それは二人の囚人が、お話だけで幾つかの映画を、そのあらすじ、登場人物の着ている服の色や髪型、シーンのセットがどんなのかを語り合うのです。映画の話に興じている囚人の話に惹き込まれた私。どこまでいっても同じものが出てくる、マトリョーシカみたいですね。いつしか雨は小雨に変わって、向こうから、小さな三日月が顔を見せました。私は月が雲の間に隠れるまでに、リコに手紙を書いてしまおうと思ったのです。

月明かりといえば、今日、素敵なことがありました。リコはびっくりするかも知れない。私は太陽とかくれんぼをしたのです。いいえ、最初から説明をしましょう。今朝、カフェ・クッカへの出勤の途中です。リコも知っているように、カフェ・クッカは湖の近くにあります。だから私は朝、湖岸を走ることになるのです。コンクリートの岸壁の向こう、ちょっと覗けば枯れた葦の側に水鳥たち。地方で生活するって優雅だなあって思う瞬間です。そのとき視界の上の方、つまりは湖のこっち側じゃなくて、中央のあたり、三本の光のはしらが出来ていたのです。湖はそこだけ輝いていて、その上に、きらきらひかる靄が立って、低く垂れ込めた雲まで延びているのです。それはまるで、地底から光が発せられて、靄が光の筋のように、天を照らしているように見えたのです。でも光線の流れは下から上じゃなくて、逆。湿度と時間がうまい具合に重なって、太陽の光が湖上に掛かった靄を照らし、靄に反射した光が湖を照らしていたのです。でも私の心の中には、上昇の運動があった。とても美しかった。そして、光線と水蒸気の組み合わせからは、虹が作られます。その日見た虹は、虹の断片。湖とその上の雲だけを繋ぐ、本当に小さくてかわいい、きれっぱしの、虹でした。

まだ勤務の時間まで余裕があったので、私は車を近くの空き地に止めて、その光景を、じっくり見ようとしたのです。そしたらどうでしょう。もう、虹は消えてしまっていたのです。

そう。自然ってそういうもの。ちょっとした角度、ちょっとした条件の違いで、素晴らしい光景はすぐに見えなくなってしまう。私が太陽とかくれんぼをしたっていったのは、こういう意味です。でも、それだからいいんです。私はいつでも待ち構えている。この世界が、素敵な光景をひょっと表してくれる瞬間を。それは本当にわずかなサインから成り立っている。そのサインを見つけようとすればするほど、私はこの世界と仲良くなっていくような気がするのです。

かくれんぼは、私たちもよくしたね。思い出した。じゃあ、また。

マコ

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