それでときどき、カレンは私に手紙を書きます。その土地で買った絵葉書も同封されているのだけれど、ただ絵を見せたいだけみたいで、そこには何も書かない。別に便箋でまとまった長さの文章を書いてよこしてくれる。例えば、こんな風に。
マコ、私はいま地中海のほとり。Mediー中ーterraー大地ーneanなんていうけれど、これは全くの海。今日の昼に、そのメディ・テラ・ニアン・シーの海岸を散歩したんだけれど、それが凄かった。両側に、ほとんど視界をさえぎるものがなくてね、180度、海が見えた。そしたらその海って丸いんだ。そう、水平線は曲がっている。エラトステネスのいったとおりに、地球が丸いことが目で見て分かるんだ。そうするとね、ああ、自分は街の中にいるんじゃなくて、地球の上にいるんだって思う。そう思う時の沸き上がる気持ち、マコにあげたい。右手に少し突き出した陸地があって、そこには真っ白い風力発電機が回ってる。それが回転するのが、抜けるような青空の中でみごとに映える。私の頭の中では、メディ・テラ・ニアン・シーの反対側、古代アレクサンドリアで海を見たエラトステネスと、21世紀の新しい造形が二つで一つになる。人間の生きて来た歴史をたっぷり吸収してしまうほど、目の前のメディ・テラ・ニアン・スィーは漫々たる水量をたたえる。
なんて。手紙の中に手紙。マトリョーシカ式に書いてみました。リコには言わなかったけれど、カレンの手紙に私は結構救われている。毎日の繰り返しの中にいると、世界が一つの形しかとらないものだと無意識に思ってしまう(それが行き過ぎると、その世界に絶望して、自殺をしたりする)。 カレンは私の代わりに世界中を飛び回って、目の前にあるものだけが世界の全部ではないのだ、ということを私に分らせてくれる。それってすごく、私には大事なことなのです。
じゃあ、またね。
マコ