リコ。なぜ夕焼けは綺麗なのでしょう。今日はカフェのお客さんが途切れるたびに、沸き立つケトルの水蒸気の中で考えていました。
だって、太陽そのものが美しい訳じゃない。ひまわりの咲く、真夏のアスファルトの坂の上か、熱い砂の海岸ででもなければ、ほとんどの人が南中している太陽を美しいとは感じないでしょう。それなら色?赤い色はより人間に好まれるのでしょうか。でも赤い照明を使った舞台照明が、必ずしも人を感動させるとは限らない。いいえ。と私は、カップを拭く手を止めて考えたのです。夕焼けの色合いは単色ではない。まるで十二単のように、藍から朱、黄に至る色の重なり。これなら人間が好きになる理由も分かる気がします。
しかし私はさらに考えを進めました。南中する太陽と西の空に沈む太陽の違いとは、変化の量なのではないか、と。南中する太陽は、私たちの頭の上でさんさんと輝いているだけです。一方夕焼けは、太陽、山の稜線、西の空にたなびく雲々、早くも輝きだした月そして星、赤く染め上げられた野山の植物、そして私たち。夕日はすべてを変化させます。それは、人の手の及ばない大きなものの営みが、一どきに感じられる瞬間なのです。そうして私たちは思う。私たちは人間界に住んでいるんじゃなくて、地球の上に住んでいる。そんなことを感じるがゆえに、私たちは夕焼けを愛するのかも知れない。
マコ