リコ。このあいだイベントがあって、トモコさんと南の街へ行きました。地球から見れば少しだけ南。でもそこには春が早めにやって来て、白の、黄の、紅の花々が、イベントに華やかさを添えていて、それは穏やかな日曜日でした。太陽のもたらす、透明な光の膜の中で、それぞれの人々がそれぞれの人生のある一点で、同じ平和を楽しんでいたのです。
今朝仕事場へ向かうとき、車を運転しながら、街路樹が芽吹いていることに気がついたのです。それは、「芽吹き」という語の古代語で名付けられた神社のすぐそばでのことだったので、なおさら私は変に感動してしまったのです。私は近頃やっている遊びをすることにしました。家から仕事場までに見たことをテーマにして、小さな物語をつくるという遊びです。その物語は、このように始まるのです。
「つぼみたちは『生命のおおもと』と呼ばれるお母さんに呼び覚まされて、未だ冬の残る、寒空の下へ生まれました。
つぼみたちは、外の世界があんまり寒いのに恐れおののいて、固く、ちいさく、固まりあっていたのです。鳥が来ても、満月が出ても、つぼみたちはじっとじっと固まっていました。
幾日が過ぎました。やがて遠くに望む山の肌が、白い着物を脱ぎ捨てた頃です。一匹の燕がつぼみたちの座る樹の枝に留まって、『春の来る、春の来る』と鳴いて飛び立って行きました。
春が来たのは、その三日後です。最初に話しかけたのは春風の方です。
ーおお、どうしたい。そんなに寒そうに縮こまって!私が見た南の街では、みんな暖かそうに、光の膜の中で過ごしているものを!
つぼみたちは答えました。
ーああ、そうなのです。僕たちはお母さんに起こされて、寒いこの空に生まれたのです。ここはなんて寒いのでしょう。仲間がいなければ、生きても行けません!
春風は道草をさらさら言わせて聞いていましたが、やがて口笛のような声で言いました。
ーおお、それは大変だった。本当に。仲間がいることは大事なことだった。でもあなたたちは、一人ひとりで生きていくように生まれついているのです。私は旅の途中ですが、あなたたちにひとつ、プレゼントをあげることにしましょう。これは柔らかな毛布です。それでもあなた方が強く、たくましく生きるならば、これも立派な葉になって、あなた方を守ってくれるでしょう。
そうして春風は山の方から風を吹かしました。風は若緑色の葉っぱに生まれ変わって、つぼみたちをやさしくくるみました。
春先に風がつぼみたちを助けることは、本当に物事を分かっている人なら、よくあることだと知っているのです」
どうでしょう。今日作ったお話は、大体このようなものだったのです。またお話が出来たら、話させて下さいね。
マコ