リコ。ずいぶん間があきました。私はいつもこんな調子。まったくリコには似ても似つかない妹です。
やっぱりこの街は美しい。そう思います。トモコさんのカフェは街から少し離れた場所にあって、やはり湖の近くなのです。だから私は家に帰るとき、湖にそって東へ走っていきます。街並みが、もっとも密度を増す方向へ。もう十二月で夜だから、国道から見える市街地は、湖の向こうにきら、きら、と光ります。オレンジのあかり。青白い炎。赤く、ちかちか点滅するタワー。それは夜の、ほんの数時間だけこの世に現れる湖上の楼閣です。向こうを走る車のテールランプの行列が、街の血液のように、流れていきました。
今日私は、とても素敵なサプライズを受けたのです。結論をいってしまうと、それは一つの手紙でした。差出人は書いてなくて、封を切ると透かしの入った上品な紫の包みに、便せんが入っていました。と、封筒の中からするりと、白い、花びらが落ちてきたのです。そのとき、私の中であらゆる記憶がどっと蘇ってきて、私はその花びらごと、送り主を抱きしめたい気持ちになったのです。
それはリカちゃんの―その人はもう、立派な大人ですが―何年ぶりかの手紙でした。つい先月妊娠が分かって、しばらくは子育てに没頭するんだなあって思ったら、あなたのことが思い浮かびました。そんな内容の手紙でした。
リカちゃんと私が小学生だったころ、私たちは私たちだけにしか分からない方法で遊び、特別な呼び方でお互いを呼び合ったのです。その始まりは二人で神社にいったとき。神社の入口にたくさん漢字のついた看板が立っていました。私たちは、大人が新聞を読むように、漢字テストをするように、始まりのところを少し、読んでみたのです。どうやらそれは、この神社の由来を書いた由緒書きだったのですが、そのとき不思議な神様、というよりはお姫様の名前を見つけたのです。それが、コノハナサクヤ姫でした。きっとこの神社には、このお姫様が眠っているのだろうと見当をつけたのです。それからはしきりに花のことが気になって、二人で境内を回って、お互いが一番いいと思う花を摘んできて、贈り合おうということになったのです。それがこの遊びの始まりでした。
それ以来、リカちゃんは私に秘密の手紙をおくって、それには必ず新鮮な花の花びらがついていました。彼女は手紙の中で、自分のことをコノハと呼びました。私はサクヤとなって、やはり花びらのついた手紙を、彼女のロッカーへ忍び込ませたのです。
もう何十年が経ったんだろう。その花びらが、リカちゃんとの思い出のすべてを、風に乗せて運んで来たような気がしました。たとえ何年あっていなくても、心から通じ合える友だちがいるって、なんて素晴らしいことなんでしょうね。もし私がこの世界からいなくなったとしても、私は私のいない場所で、綿々と心の中に生きていくことが出来る。私はことあるごとに思い出される。あの、花びらたちと一緒に。それはリカちゃんの心の中につくられる、私という花びらのネックレスなのだと思うのです。
命のネックレス。記憶のネックレス。それは今夜みたこの街の光の連なりと、どこか似たように思えるのです。
長くなりました。今日はこの辺で。おやすみ。
マコ