リコへ。
雪が周囲のおとを吸収して、「きーん」と無音の音を聞くとき、夜なのに雪はむらさきに輝き、空は朱鷺色に光っている。そんな雪夜をひとり歩いていると、私がまだカフェの店員として働く前のことを思い出します。
私が会社を辞めることを決めたのは、こんな雪の日だった。雪の一降りは過ぎ去って、あとはゆっくり解けていくだけなのだけれど、降った量があまりに多いものだから、世界一面、雪の毛布にくるまれていました。静けさが集中力を誘って、私はこれから本当にどうするのか、考えながら歩いたのです。
今の私は、生きている事と息をする事が、ほとんど変わらない。ただ、生物的な欲求、つまり食糧を得て生きながらえるためだけに、毎日を送っている。それでこの国の経済に貢献しているではないか、という人もいるかも知れません。しかし、有限な資源を地底から掘り出してごみに変えていくとお金が溜まるなんて、何かが間違っているように思ったのです。それは私たちが生き永らえるためだけの、本人たちは真剣の「お遊び」であって、私たちは決してそのために生まれて来たんじゃない。
そんなことを、悩み、立ち止まり、考え考えしてあるいたものでした。そして会社を辞めて、バイトをして、トモコさんのカフェで働き始めることになるのです。
人はみんな、この世界で何かの仕事をするために生まれてきたのだと思うのです。その仕事というのは、銀行口座にお金を振り込んでもらうための「手続き」とはまったく違うもので、私の心の形が、この世界の必要な部分と噛み合って、世界を少しだけよくしていく。ふかふかした大地に鍬を入れて、私の筋肉が大地をよくしていく、そんな仕事をするために、私たちは生まれてきたのだと思うのです。
寒くなりました。気を付けて。
マコ